自笑庵:ともやの時おりおりのメッセージ

HP~スペインの大地とその心を描く~澤口友彌の世界でつづったブログ (2003 - 2011 年)

160. 風評と口調

東日本大震災2週間。お亡くなりになられた数多くの皆様方のご冥福をお祈りするとともに、被災された皆々様に心よりお見舞い申し上げます。

若かりし頃、この度と同じように東北地方が津波に襲われたことがある。汽車を乗り継ぎ3日目にようやく釜石に着いたが、目的だった津波の高さ測定どころではなかった。その惨状に直面し、後片付けのお手伝いに2泊3日を投じた。
当時は靴底もお粗末で、釘の踏み貫きに気を配りながら素手は切り傷と木片の刺さりで膨れ上がった。手助けは消防団員が中心で、買い占めや風評被害のようなものはなかったように思い出される。

今回の災害では駆けつけるわけにもいかず、期間限定の各局のライブストリーミング配信にしがみついている。感動したTBS放映はそのサービスを早くに終了。NHK総合テレビは今日が最後の日だった。明日からは「がんばれ福島」ラジオ放送だけがたよりだ。

福島放送はアナウンスが元気よい。長崎大の教授だったか、招かれた専門家も実に明快で、聴衆に勇気と活力を沸き立たせてくれる語り口だった。
それに引き換え、NHKテレビは風評被害の発信元ではないか?!と感じてしまうほど私は憤慨しながら見入っていた。とくに21時台の放映とクローズアップ現代の口調は視聴者に恐怖心と不安感を植えつけるかのようだった。ゲストの専門家が「心配しなくとも大丈夫」と強調しているにもかかわらず「妊婦は?」「乳幼児は?」と追求し、「……ともありうる」というような歯切れの悪いネガティブな言葉を専門家の口から殊更引き出そうと仕向ける―――このあたりから不安の風評が増幅されているように思えてならない。

被害をもたらす放射性物質もしかり。風向や降雨の関係でシーベルト数値は変動もするし、測定場所も少し移動したらシーベルト数は大きく増減すると専門家が明言しているのに、同じ席で、某所でマイクロシーベルトの最高値を記録しましたとわざわざ表示言及する。その態度を私は理解できない。
野菜にしてもしかり。出荷制限された品目を強調するだけではなく、これこれの品物はだいじょうぶですと前向きの心遣いがなぜできないのか。
いまやニュースは数十分のうちに世界をかけめぐる。わしはこの2週間のNHK放送で失望と違和感に苛まれている。

万一、できるだけ細部にわたり客観的な放送と主張をするのであれば、復興に向けて精神的に立ち直った人々だけではなく、どん底で苦しみに打ちひしがれている方々や災害死、負傷された方なども同等に放映すべきだ。被災地の真実の苦しみと痛みを共有し、その被災さに耐えうる強い心を小児の頃から育成に努めるべきだ。そうすれば風評被害の現象も、「こうしなさい」と命令されなければ乳児に乳も飲ませられない母親も、主体性不足で情報を選択できずウロウロする大人も、自然なくなるであろう。

大震災と東電の原発事故で被災されたどなたも最大限がんばっておられるのに、その上がんばってくださいとはいえないが、学生時代の原発反対運動が不十分だったことがいま悔やまれる。