自笑庵:ともやの時おりおりのメッセージ

HP~スペインの大地とその心を描く~澤口友彌の世界でつづったブログ (2003 - 2011 年)

41. ケ・アプロベッチェ ¡ Qué aproveche !

スペイン社会に盆栽を普及させたゴンサレス前々首相の右腕と認められていた男。いまは社会労働党選出のEU委員としてブリュッセルに籍をおいているが、かつて「選挙公約なんてものは、その場かぎりの思いつきみたいなもの…」と公言したことがある。

この春に誕生したサパテーロ政権もこれを地でいくのか、夏のレッカー車のストライキから国営造船企業IZARの暴力的ストライキと続いた。取材に出かけるには場所、曜日、走るコースなどを勘考しなければならん季節になったようだ。

全国6ヶ所に分散する国営造船企業は1万人の職員で支えられている。すでに1970年代から諸々の困難を背負っており、今年の赤字見込みは約229億6000万円。以前に「ヨーロッパ水準まで引き上げる」条件で受けたEUからの援助金も履行不十分で借入金扱いとなれば、存続はきわめて難しいように思えてくる。

こんな環境の中で現政権は100%の雇用維持と6%の給与引き上げを選挙公約した。ところが半年過ぎ、好調な軍用船舶と民間船舶の造船を切り離す動きとなった。ために、将来的には民間部門閉鎖を懸念した職員が多数の力でガードレールを引き曲げる、道路沿いの15mほどもある長い街灯の金属製ポールを引き倒す、道路にタイヤを並べたり大型のごみ収集箱を引き出してきて放火する…などという暴力ストを各地でやり始めた。

ストライキだけではなく、熱狂し始めたら何が起きるか自分では判断できない恐ろしさは常に頭の隅の方で息づいている。その上、事前の情報はほとんどないので遭遇したらあきらめるより他にない。

何年か前に、乾ききった大盆地の一本道で農民のストに出遭ったことがある。前方を何十台ものトラクターで封鎖され、後続車が道路いっぱいになって詰め寄せるから後戻りも不可能。木陰もない炎天下で4時間も待たされた。それ以後は水とカロリーメートは車のトランクに常備しておく習いとなっている。

韓・日・中の造船実績は2000年以後上昇し、いまでは欧州の7倍強となった。欧州造船業界はアジアに太刀打ちできなくなってしまったが、これは単に造船だけの話ではなく、生産力を挙げなければヨーロッパ経済はアジア・アメリカに対抗できなくなったことを意味する。

そのことに気づいたのか、やっと確保した短時間労働権を手放してもとの40時間労働に戻し、そして延長労働時間分は無給という条件が労使間で締結されたり、一方では失業対策がらみで交代制超短時間労働と低賃金を手探りする動きもでてきたようだ。

しかし今日も近所のおばさんが国鉄がストなんで…と言っていたなあ。この時季になると農産物や酪農品などを国境で入れない、通すで一騒動もよく起き、道路が捨てられた果物や牛乳で通れなくなる……。

uvas in Tomoya's World 2004

初秋の味「ぶどう」 uvas (c) Tomoya Sawguchi 2004

そういえば、そんな勇ましいことをするトラックドライバーが利用する道路沿いの食堂は確実にうまいよなあ。

わしは旅に出たらトラックのいっぱい駐車しているレストランへ飛び込むことにしている。旨い上に量も十分。マドリー近辺のように割高の旅行者メニューを持ってきたりしないで座るとサッと本日の定食メニューから選ばせてくれる。

今回も234号線沿いの   アルフォンソ2世王というすばらしい店名の食堂に入って仔牛のほっぺたの骨付き肉のオーブン焼きを食べた。高級レストランでも味わえない絶品だった。おまけにトラックドライバーたちがわしのテーブルの横を通る時にも「ケ・アプロベッチェ!」と挨拶をしてくれる。決まり文句で「ごゆっくり召し上がってください」ぐらいに訳されているが、「失礼、ちょっと前を通させてもらいますよ」といった感じがこもっており、同じ釜の飯を食う仲間意識のようなものをつくってくれる表現だ。

国境で10段重ねの果物箱を一気に道路にほおり投げるような猛者たちに囲まれて、同じものを同じように食う。ただ安堵感のみで包み込んでくれる不思議な世界に浸れるのはそのせいかな。