自笑庵:ともやの時おりおりのメッセージ

HP~スペインの大地とその心を描く~澤口友彌の世界でつづったブログ (2003 - 2011 年)

40. ニーニョ・コロン Niño Colón

スペインと英国は昔からそりが合わないようで、お互いに子どものけんかそっくりの嫌がらせをやっている。

つい先日もジブラルタル返還問題で渋ったイギリス人は、事あるごとに「スペイン人の冒険は金が目当て…」と動機の純粋性を疑っている。たしかに、外国のロケットに乗せてもらったスペイン人宇宙飛行士がテレビ局の商標を胸の前で広げて見せたり、山頂を極めた登山家がいの一番にスポンサーの小旗をひるがえさせる場面などをTVでみせられると、その仕組みはわかっているんだがどうも横を向きたくなってしまう。コロンブス西インド諸島やメキシコから次々と中南米各地に侵入し、富を思いのまま勝手に我が物とした冒険も十分にウンと納得できる。

ところでスペインが誇るこのコロンブスなんだが、指さした片腕をまっすぐに突き出している像でよく象徴されている。あれは「おれの指さした先にあるモノは全部自由にできる俺のモノだ…」と宣言している姿なんだ。そのコロンブスのイメージが最近の子どものイメージとタイアップして「ニーニョ(=子ども)・コロン(=コロンブス)」という新語が生まれた。ようするに、自分のほしいものを指させばなんでも買ってもらえる子ども中心の世相を風刺しているわけだ。

外資導入・国有財産売却・EUからの後進地域開発の補助金給付など浮ついた金で景気あおりの風潮に乗せられてしまった国民は、伝統的美質ともいえる保守性を見失い、より安易で華美な近代化らしき消費文明にならされてしまった。

ところが現実のスペインの実像は、EUに新規加盟した東欧諸国よりも労働生産性や労働の質は低いが、労働賃金はEUの平均以下とはいえ相当高いと評価されている。ために、基幹産業での外資は次々と引き上げ東欧に移っている。

一方スペインには極めて重要な観光業も、客はより質の高いギリシャ・トルコなど地中海東部地方に流れてしまい横ばいの低迷状態である。高級ホテルでも隣室の話し声は丸聞こえ。食事は冷凍食品。そのうえ高値とくれば低迷も必然的結果といえるだろう。このように不況の入口に踏み込んでいても、一度おぼえた安易な道からはなかなか抜け出せないのが人間の習性の悲しさだ。

少子化時代に過保護で育った不躾なニーニョ・コロンは、指さした物が手に入るまでねだる。親は金がかかるんでもっと給料を増やせ!…と。そこにはしつけをしなきゃ、教育をしなきゃ、の反応はない。

このニーニョ・コロン現象は若者にも当然転移し、月賦の自動車をねだる。一番安い唯一の国産車(実はワーゲンに買収されている)セアットを買ってもらいぶっ飛ばす。また若者が車を持つと、友人や知人に見せびらかしたい段階なので能力以上にいい格好をする。

結果、事故死の6割が週末に集中するなかで若者がその半分を占める。それはイギリスの3倍、ドイツの2倍といわれているが、どうもその根本的原因は科学としての自動車知識の密度が低く、ただ反射神経だけに頼って運転をやるところにあるようだ。だから危なくてしかたない。わしは歩いていても運転をしていてもセアットが近づいたら警戒することに決めている。

女性の服装も持ち物も華やかになって、それら派手な消費のしわ寄せは食品に反映されてくる。安価で手間のかからない冷凍食品への依存度が急速に高まり、生鮮食品の売り上げは半減したと市場主は言っていた。そのせいなのか、いままで見られなかったビール樽のような体型の女性・子どもが目につきだした。

こんなニーニョ・コロンは教育改革以外に建て直しはできないんだろうが、わしはヨン様ベッカム様よりは機知に飛んでいるように思えるんだが、どうだろうか。