自笑庵:ともやの時おりおりのメッセージ

HP~スペインの大地とその心を描く~澤口友彌の世界でつづったブログ (2003 - 2011 年)&その他

17. 屑(くず)ぶどうの味

スペイン通信No.14でブドウの話を書いたが紙面がオーバーしそうなのでこちらで続けます。

今年のスペインは記録的猛暑と乾燥した夏だったもんでブドウは甘いのだが果汁が少なく、その上、実割れも多かったようで、ラ・マンチャ地方などの大きなブドウ酒工場はうんと早めに摘み取ってしまったところもあるようだ。わしの好きなペーニャ・デ・フランシアの山中も例年より早く、2日前に久しぶりの秋を楽しみに出かけてみたらちょうど収穫の真っ最中だった。

毎年この季節は個展で日本へ帰っているのでスペインに長く住んでいるわりに「秋」を知らないのやな。それで今回はじめて本格的ブドウの紅葉を満喫し感動したというもの。緑・黄緑・橙・朱・濃赤・茶に黒まで混合した大自然の色彩に脱帽。わしの創り出す色なんて恥かしくて大自然には見せられたもんじゃない…と改めて反省させられたねー。

カシやクリ、雑木に囲まれ、岩だらけの急斜面にへばりついたミランダ村は、家ごとにブドウ酒仕込み用カシ樽に水を張って「たが」の弛みを戻すために道に転がしている。段々の多いせこ路を通ると5軒に1軒ほどの割合でブドウつぶしをやっている。

ブドウは摘み取った日に潰して仕込んでしまうのだが、足で踏みつぶすのは一番軟らかくブドウの皮を破裂させ、手間がかかるけれど最高のワインができるんやそうや。足の力配分は踊りの要領だ…なんて踏み続け、飲み続けながら、去年のやつだが旨いぞと強引に飲まされたりしてな。ちょっぴりお世辞も含めて「いけるなー」と言ったばっかりに、5リッター入り水ボトルの再利用で満タンの赤を持ち帰るはめとなったよ。

村共同の泉でおばさんがカシ樽から赤ワインを路にドボドボと流して捨てている。思わず「どうしたんです?」と声を掛けてみた。カシ樽より押し出しの良いそのおばさんははき捨てるように答えたね。

「こんなもんは酢だよ。屑ブドウを手間賃にもらったってワインなんかできやしないよ…!」

生酔いの頭を一発ガーンとやられたショックをまたまた味わされたねー。乏しくともブドウ畑持ちは村の旦那衆たちよ。村に入った時の甘酸っぱい芳香が急にすえたにおいに変わっちゃったねー。