自笑庵:ともやの時おりおりのメッセージ

HP~スペインの大地とその心を描く~澤口友彌の世界でつづったブログ (2003 - 2011 年)&その他

13. どこにもずるいやつはおる

7月の後半から8月いっぱいはスペイン人のバカンスで田舎は街や外国から里帰りした人たちでけっこう賑わう。ざわついた村の雰囲気はどうもしっくりしないので本格的な絵描きの旅には向かない。それに今年のヨーロッパはメチャ暑で、猛暑には慣れたつもりだったわしでも少しばかり堪えたねー。

まだ未経験なんだがグラナダ近くで56℃まで上昇したときさえあったよ。毎日公園の木々が揺らいでいてもそれは熱風。だから夜の12時頃までは窓を閉め切り、日覆をいっぱいに下ろして暗くして猛暑対策としていた。しかしこんな日が続くと窮屈になり、気晴らしに日帰りの取材に出かけたくなる。今日がそんな日だった。

喉を潤しに入ったバルで、みんながおいしそうに生ビールを飲んでいたのでわしもそれにした。ところがバルのおやじがわし用に持ってきたのが中ジョッキーと海老入りジャガイモのニンニクマヨネーズ和えだった。他の人たちが飲んでいるのは普通のグラスに肴はオリーブの実やから「さては、おやじ、やったな」と一瞬に理解できた。

顔つきは外人でも居住が長いからスペイン人の心の動きは簡単に読み取れる。根が日本人ほど表裏がないからすぐ顔に出てしまうのだ。だからコソ悪を仕掛けられても心の中では「この下手くそ」と笑っておれる。

だがおやじにうまくやったと思わせてはならんので、飲み終わってからカウンターに料金表にある普通サイズのビール代を置いた。案の定、これじゃ不足だと手真似と紙に数字を書いて普通の4倍ほどの金額を請求してきた。それで黙っておればわしも一言「押し売りしたな」と笑いながら素直に料金を払うつもりやった。

ところが「このチーノ(中国人)はこんな大きなジョッキーを飲みながら普通の料金しか払わないとよ。笑わせるじゃないか」と大声で周りに向かって言うのだ。わしは「ばかやろう!」とおもわず日本語で怒鳴り返してしまった。

しばらく、心が鎮まり唇の震えの止まるのを待って、「わしは30年近くスペインに住んでおる。それもスペインが好きなんだからだ。わしも皆と同じようにスペイン人の仲間に入れてくれよ…」と静かに訴えた。バルの中にいた10人ほどのスペイン人は申し訳なさそうにうなだれていた。

bota

bota (c) Tomoya Sawaguchi 2003

こんな純朴さが大好きなんだが、なかには本質的に豊徳時代の南蛮気質を受け継いだ者もあるようだ。「また会おう!」と挨拶してバルを出ると、外はアフリカからの熱風が砂を巻き上げていた。