自笑庵:ともやの時おりおりのメッセージ

HP~スペインの大地とその心を描く~澤口友彌の世界でつづったブログ (2003 - 2011 年)&その他

24. 日本は東の端じゃあないよ

先日、日本から遊びに来た知人がゴボウを持ってきてくれた。彼の地についた知識と判断に喜びは倍増したねー。

ゴボウは日本だけの食品のよう。ポルトガル、スペインで野生ゴボウをみたことはあるが栽培はしておらん。ゴボウは完全不消化食品だそうやが、あの香気と代替できる食材はどうもなさそうやし、わしにとっては強烈な日本の懐香だ。

体内のコレステロールや有害な無機物を体外へ排泄してくれる最高の繊維質食材のゴボウ。そんなことよりは、土付きの表皮を包丁で削るときの香り、指を染めるアクすら楽しくてさっそく頂戴した。このゴボウを笹切りしながら、スペイン人は刃物を手前に引きながら、つまり自分の体に刃を向けて削るよなあ…なんて考えてみる。

古い話になるが、ものの本に「ヨーロッパ人は他人に危害を加えないために自分の方に刃を向ける」と某文化人が書いていたことを思い出す。当たり前のことやが、日本の世界地図は中央に日本がおさまるように配置されておる。ヨーロッパの地図は、当然、ヨーロッパが真ん中で、日本は一番右端に干からびた唐辛子のようにちょこんとついているだけだ。

単純に言って、このように異なった世界地図を見て育った人間の世界観は異なったものとなる。そのことについては今回は省略するとして、この某文化人の発想の仕組みは国語辞典でいう「客観的な立場で注意深く詳しく見る」観察眼から生まれたものではなさそうやねー。ヨーロッパの世界地図を、表面だけ軽くかき取った湯葉のように薄っぺらな発想で見ているとしか思えないんよ。

権威・卑屈・利害損失と世にわずらわしい雑念の外でごく自然体で30年近くスペイン社会に漬かっていると、刃を自分に向ける現実の行為は、単に自分の方に取り込んでくるだけのことで、他人に危害を加えないためなんていう崇高なものではなさそうや、と、このごろは確信できそうになってきた。

のこぎりは押して切る。これも不要な屑は外への発想から生まれた構造。その上、のこぎりが弱ければ鋼鉄板を厚くすればいい、鎖を切られたら太くすればいい。…こう眺めてくると、ほしいものは取り込み、いらないものは捨て、力には力で対決するというヨーロッパの本質がみえてくるが。それを今この時期、しっかりとつかむことが必要なんじゃないかなー。

別の、定年退職され遊びに来られた方と話をしていたときのこと。

スペインでは日本のことをパイス・デル・ソル・ナシエンテ ( País del Sol Naciente =太陽の出づる国) と呼ぶんですよと説明したら「天照大御神や神国日本という来歴をスペイン人も知っておるんですな」と受け取られたのにはちょっとびっくり。スペイン人の世界観からすれば物理的心理的にも東の端くれで、単に太陽が一番先に顔を出す国という程度の呼び名なんやがなあ。でもこの方だけではなく、案外、日本式の世界地図を眺めて日本流儀で納得しきっておる日本人が多いんじゃないかな。