自笑庵:ともやの時おりおりのメッセージ

HP~スペインの大地とその心を描く~澤口友彌の世界でつづったブログ (2003 - 2011 年)

54. 底冷えするような夏

暑中お見舞い申し上げます。

水に浮かんで空を見上げている時の解放感は子どもの頃から好きだった。益田川(岐阜県)でヤスで魚を追いまわすのに飽きてくると、仰向きで全身の力を抜いて顔だけを水面から出す。流れがつくり出した空気の泡のはじける音が、水で蓋された鼓膜を、無限の彼方からやっとたどり着いたようなこもった音でポコポコと静かに打ち続ける。空を眺めながらこの音を耳にしているとつい眠りに引き込まれ水を飲んでしまったものだ。

夏休み帳は天気だけ毎日つけたが、川遊びばかりで1ヶ月が過ぎてしまったように思い出される。

ヤス、銛(もり)といえば魚を突き刺す道具だが、なぜか今回のG8サミットではこんな攻撃的な道具を連想してしまった。

朝鮮語で頭のことをモリというが、モリは1本の太い先のとがった鉄棒だ。今までのブッシュはまさにこのモリで単独覇権を夢みていたが、こんどはどうもあきらめたのか、低温で揚げた野菜てんぷらのようにベトベトした米語をあまり聞かなくてすんでホッとした。

ホスト役のブレヤーはきっぱりとヤスに転向したようだ。ヤスは細いとがった鉄棒3~5本を束ねて竹棒にくくりつけ川魚をつく道具だ。このように何個かの頭を寄せ集める集団覇権構想を打ち出したわけだ。しかしいずれにしても攻撃的な頭領として他を征服し、一方の旗頭になるという思想には変りはない。

アフリカの原住民を秀吉家康時代にかき集め、その腕や尻に出身地と取り扱った商人の焼印を押し、一区切り10坪ほどの地下倉庫に何百人も立って入るだけ詰め込んでおいて奴隷買い付け船に出荷した。10人に2人ほどしか生きて到着しなかったという。それでも1500万人ほどが牛馬同様に欧米人より売買されたアフリカの歴史を思い起こすと、このG8で強調された「アフリカへの援助…」、いまさらなにが、と憤りすら感じた。

唯一、いまだかつてほめたことのない小泉さんがアフリカの国々が一本立ちできるような教育・医療などに援助することを意識的に強調したことが嬉しかった。我田引水的な受け取りようかもしれないが「──おまえさんたちは過去の植民地時代に宗主国としてただ搾取しただけで原住民を育てなかったからな…」とその含み言葉を聴き取ったように感じたからだ。

それにしてもイスラム原理主義者の○○派とテロ集団を名指しで特定できたときは過ぎ去ったようだ。ノルマン・ゲルマン・ラテンなどと呼ばれる民族がテロには無関係なアラブ系の人たちを、単にイスラム教徒だというだけで無差別に攻撃する動きへの反動として、イスラム原理主義に関係なく欧州国内に住んでいたイスラム教徒の若者がイスラムテロ集団のシンパとして組する兆しが見えてきたことは恐ろしいことだ。

そもそも族という文字はフキナガシの下に弓矢を持って集まった者を意味なんだが、単純な若者の民族主義を政治的に利用しようとする幽霊話より現実的でぞっとするような夏を迎えそうだ。