今日でスペインに来て27歳になった。日本での職業は21年間続けたが、絵描きを仕事にしてからの年月の方がだいぶ上回った。
厳しいプロ意識が定着しているスペインでは絵を描くことで生きていなければ絵描きとして世間は認めてくれない。過酷で、独習の積み重ねの27年間であった。
ここでは学校や塾で絵を教えている人はあくまでも絵の先生であって絵描きではない。また集団の中で会員だ準会員だとやっている人たちは未だに絵画における基本姿勢としての「個」が確立していない者たちということで「画学生」として扱われる。実に厳しい。「絵は人に教わるものではなく、教えるものでもない」という突き放された孤独に耐え、情熱を込めて個を主張してこそ初めてプロとして認知される。そういう社会だ。
27年間もスペイン社会に漬かっているのにいまだに電話が怖い。
電話では相手の表情やジェスチャーの援護はないし、自分の全人格を投入した言語力で理解する以外にはないからねー。絵画同様わしにとっては恐ろしい代物だが、外国語の力を高めてくれる母語(わしにとっての日本語)の力をそれ以上に高めなければいかん、ということやろうなー。
絵も、描きたい対象の本質にいかに自分の心で迫り得ることができるか、ということやろうなー。そして美しいものに対する感性の活力みたいなもの、換言すれば、緊張感をいかに長く持続させるかが今後の課題やと74歳の老骨にいってきかせている。
─── 連日の雨に足止めをくって、今日はサンルームが取材先となった。