61. ミモザのつぼみ
夜気はまだ冷たいが、草木の芽のほぐれる香がかすかに漂ってくる季節を迎えた。
ところがどうも日本社会は陰湿なカビの胞子がはびこってしまったのか、前日までは堂々と無罪を主張し、逃げ切れなくなったとたんに豹変して泣いて謝罪してみせる大ホテルチェーンの社長の猿芝居。いつの間にか国民ではなく自分たちだけを守る防衛庁になっていたりと、海外から日本の現状を見聞きしていると隠花植物のカビが臭ってくる。
一方、住んでいるヨーロッパに目を移せば、これまた信仰の自由と表現の自由とが真正面から衝突し、各地でムハンマドに対する侮辱に抗議した実力行使が繰り広げられている。どう考えても潜在意識にある欧米優越主義のあだ花が狂い咲きしているとしか言いようのない現実だ。
とっくにその資格を失って死語になってしまった万物の霊長と呼ばれた人類には、どうも春の芽吹きは到来しないのはないか?と諦めが先立ってしまう。しかし例年より遅れているミモザの薄黄色のつぼみを眺めながらふと思った。心の枝ぶりを青い空に向かって力いっぱい張り上げることができる爽やかな春を引き寄せるため、残された微力の足しになればとわしは心のどこかで願っている。